高齢者専用の賃貸マンションに、父親が入居したのは今から約1年前。
そのマンションを契約した時に、不動産屋の人に言われたのは「合鍵を前もって何本か作っておいたほうが良いですよ」。
父親が、高齢者専用の賃貸マンションに入ることにしたのは、認知機能の低下が進んでいるから。
そのため、合鍵を前もって作る理由は、認知機能が低下した父親が合鍵を失くすからだ。
入居から数日後、父親から電話があった。
父親、「マンションのカギが何処にあるか知らないか?」
私、「いつも置いてあるところにはないの?」
父親、「いつも何処に置いてる?」
私、「そんなの知らないよ」
心配になって、父親のいるマンションに行くと、カギは玄関ドアに刺さっていた。
カギを父親に渡すと
父親、「やっぱりお前か」
私、「ごめん、ごめん」
カギは、父親が見つけやすい場所に置いておいた。
父親と別れる際
私、「カギは、何処に置いてあるか分かってる?」
父親、「分かってるよ、バカにするな(笑)」
私、「何処にあるの?」
父親、「カギならポケットにあるよ」
私、「ポケットなんかに入れてたらダメじゃない」
父親、「どうしてだ?ポケットなら失くさないだろ」
私、「ズボンを履き替えたら、どうするの?」
父親、「ズボンはこれしかないから、大丈夫だ」
認知機能の低下が進む父親は、沢山のズボンを持っていても、履くのはいつも同じズボン。
カギを失くさないよう、紐にカギを付けて首にぶら下げるようにしたのだが、父親は「子供じゃなんだぞ」と嫌がる。
サラリーマンの私は地方へ出張に出ていると、スグには父親のところへ行けないため、父親が馴染みにしている近所の食堂の主人に、父親の部屋のスペアキーを預かってもらった。
しかし、食堂がやってない時間もあるため、父親の隣の部屋の人にスペアキーを預かってもらうことも考えたが、父親の隣の住人も認知機能が低下していた。
鍵屋さんに勧められたダイヤル式のカギなら、カギを持ち歩かずに済む。
そのダイヤル式のカギに替えると、暗証番号を忘れてしまう父親は、玄関ドアに暗証番号を書いてしまった。
父親のような人は高齢者専用の賃貸マンションには多く、マンションのアチコチに謎の番号が沢山書いてある。